Our Song

 ぴぃぃぃ〜〜〜っ、と音を立てて、お湯が沸いたことをやかんの笛が知らせる。
 あたしはべりべりと紙のふたを開けて、中に沸騰したお湯を流し込んだ。
「熱つっ!」
 スチロール製の容器を持ち上げようとした途端、湯気に指をやられて思わず床に落としてしまった。
「あ〜ぁ・・・」
 なんだか、何もかもがイマイチうまく行かない。物心着いたときから、「うまくいった」と思えない気がする。
 大学に入って、一人暮らしを始めたところで全然どうにもならないのも、仕方ないといえば仕方ないの
かもしれない。
  
「・・・どしたんです?センパイ」
 土曜日の昼休み。ほとんど無人の学食でぼぉっとしてたら、後ろから声をかけられた。振り向くと、
彼女は学食のトレイを持ったまま立っている。
「ん・・・、なんだ、お亮か」
「なんだはないでしょ〜、もう。文化祭まであと二ヶ月もないんですよぉ?」
 その言葉に、あたしは一際大きなため息をついた。
「まだ何も決まってないから気が重いんでしょうが・・・」
「やっぱ実行委員って大変ですよね〜。あ、でもでもミニコンサート、やっと決まったらしいですよ」
「ホントに?!――でも、今ごろまでミニコンサートに呼ぶか決めてなかった、ってのは完全にあたしらの
ミスなんだけど・・・」
まぁ、何はともあれ決まったのなら、それはそれでいい。でも誰を呼ぶんだろう・・・・・・。
  
 ――数日して――
「おはよーございまーす」
 実行委員会の部屋に入ってきた彼女に、部屋にいた実行委員達は凍り付いた。
「あ・・・あの〜、いきなりそんなシュールなリアクションされてもこまるんですけど・・・」
 と、彼女が困ったような声を挙げる。が。
「いやぁ、まさか・・・」
「しかし・・・マジにそっくりだよなぁ・・・」
 と、彼女をそっちのけで良く分からない事を囁いている。
「あの・・・。『似てる』って一体誰と?」
 おずおずと聞いてくる彼女への答えは、あっさりと、そしてわかりやすいものだった。
『あれ』
 委員の一人が指差した方――つまり彼女の後ろ――を振りかえると、鏡の自分と目が合った。
 鏡の中の自分は――多分自分自身も――同じようにぽかん、とした顔で驚いていた。
「ち・・・千都瀬センパイが・・・増えてるぅ?!」
「なんでそーなるのよっ!!」
「うわぉっ!!」
 その素っ頓狂な声で二人とも我に帰ったようだった。
「あー・・・びっくりしたぁ・・・」
「お・・・お互い様です・・・。ええと、あなたが、今度のコンサートの?」
「あ。はい!」と、彼女はにっこり笑って自己紹介をした。
「始めまして。瑞樹菜々です」
   

その日からコンサートの準備やレッスンが始まった。あたし達は設営途中の屋台村の見回りにコンサート用
特設ステージの設営、教室で演奏する軽音部のセットへのツッコミ入れなどなど。
その中であたしに振られた役職は・・・。
「菜々さん、お疲れ様です」
 振り付けのレッスンを終えた菜々さんにあたしはジュースを手渡した。
「ありがとう」と、軽く息を弾ませている彼女はそれを受け取ると、一気に飲み干す。
 こうして歌手として第一線で活躍している彼女と、委員会との連絡係を任されたあたしは自然と打ち解け
ていった。
 似てるのは顔だけじゃなく、家族構成や今までの経歴なんかもあんまり変わらないことがわかった。
ただひとつ、違うのはあたしと違っていろんな事がうまく行っている事だけ。
「それじゃ、明日10時からステージの方でカメラのリハーサルお願いしますね」
「あ、千都瀬ちゃん?」
「はい?」
「あのさ、ちょっと頼みがあるんだけど・・・・・・」

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