SILENT CRUSING

「ごめんね」
 ポルシェの助手席に座る女が、不意にそうつぶやいた。
「え?」
 運転している男が、聞き返す。ボンネットの若葉マークは彼のものなのだろう、どこか危なっかしい感じが
操作する手つきから、漂っていた。
「ホントはね、どこか行きたいってのは、嘘なの」
 うな垂れた頭を少し持ち上げて、言った。「・・・永野氏と、二人になりたくって」
 珍しく空いている真夜中の高速をポルシェは走りつづけていた。
「こういうのも何だけど、それでみなみさんに元気が戻るんなら、お安い御用ですよ」
 そう言うと、彼は笑ってみせた。愛想ではない、優しい笑顔。
「うん・・・。ありがと」
 またしばらく無言が続く。
 ――「TWO−MIX」として活動を始めて5年。知り合ったのを含めれば、10年近くは経っているだろうか。
 この無言の空間というのは、そんな長い付き合いの中の経験からなのだろう。
「ねぇ、永野氏。海いこっか?」
「そうですね、ここからだと・・・」
 そう呟きながらカーナビに手を伸ばして――手を止めた。
「もう、後ろのトラック、眩しいなぁ」
「そうね」
 と、みなみは相づちを打ったが、振り向いて蒼くなった。後続車など、一台も来てはいなかったのだ
「ああ、もう」
 苛立った声を上げて追い越し車線に逃げようとした瞬間。
「危ない!!!!」
 叫んだ時には、既に遅かった。大きなカーブのすぐ内側に止まっていた工事車両に、ポルシェは突っ込んでいた。

――それから数時間後――

「・・・なみねえさん!・・・みなみ姉さん!」
 薄っすらと目を開けると、涙目の美瑠がベッドの横で、自分を揺さぶっている。
「美瑠・・・ちゃん・・・?」
 口元を覆うマスクをすこしずらすと、
「みなみ姉さん!よかった・・・!!ほんとに・・・よかった・・・」
 そう言って、そのまま泣き崩れてしまった。
 あたりを見回すと、彼女と、看護婦らしい人影しか見えない。
「椎菜さんが・・・椎菜さんが・・・」
「・・・は?」
「『は?』じゃなくて!椎菜さんが大変なの!」
「ちょっと待って・・・。『椎菜さん』って、誰?」
 みなみのその言葉に、美瑠の顔色は蒼白になった。

to be continued...