第4話 「In The Night」 1 人間、耐えなければならない時と、そうでない時がある。この時の朱宮優明にとって、果たしてどちらが正し い選択であったかは、誰にもわからない。 ただ、唯一はっきりしている事は、台所に立つ千都瀬がご立腹であると言う事だった。 「だからって、わざわざ待ってることないじゃない!攻騎は外へ食べに行っちゃったんでしょ?」 「だって、今月タバコも買えねぇんだもん」 そういって劉聖に飯抜きの話をされてから7本目のタバコに火を付ける。 「禁煙すれば済むことじゃない!」 「いや・・・まぁ、そうなんだけど・・・」 「『だけど』?!」 「・・・・・・止めます・・・すっぱり・・・」 目の端に薄く涙を浮かべつつも、タバコの火を消す 「よろしい。じゃ、ごほうび」 そういうと、野菜炒めと八宝菜を笑顔でさしだした。 「いっただっきま〜っす、って、千都瀬は食わないの?」 「あ、あたしはバイト先でまかない食べてきちゃったから」 ぱたぱたと、手を振る。 「ふぅん」 一方、あまりの空腹に耐えられずに外へと出ていってしまった攻騎はと言うと・・・。 「ううぅっ・・・。腹減ったぁぁぁぁ・・・」 ぎるるるるる、と腹の虫が鳴き始める。何でこんな事になったかと言うと。 「まっさか、定食屋が定休日だったたぁな・・・。しかもファミレス行く途中にバイクのガス切れるし、しゃー ねーってんでスタンド寄ってガス入れたら完全にサイフん中ほとんど残ってないし・・・」 そして既に千都瀬が帰ってきていることを攻騎が知るはずもない。しかも駐輪場も深夜で開いてない上に歩行 者天国に迷い込んだせいでバイクも押し駆けである。 仕方なくふらふらと夜の街並みを歩き回るが、学生街から外れてしまっているので、軒並み割高な店ばかりで ある。 「しっかし、どーやってメシを確保しようかね・・・・・・」 と、がらがっしゃんとハデな音を立てて路地からポリバケツが飛び出して攻騎の前を塞ぐ。見れば数人のガラ の悪い連中と腕から――ナイフで刺されたのか――流血しているサラリーマン風の男。 まぁ、そのまんまの光景ではあるが。 (やれやれ・・・)と、浅いため息を吐くと、一番近くにいた男の肩を叩いた。 「っあぁ?!ぁンだぁメぇあっ!」 日本にこんな方言あったかと思うような理解不能の罵声(?)を攻騎に浴びせた。2 「日本語ぐらい・・・きっちりしゃべれってんだよっ!!」 前のめり気味にガン付けてきた男の顔面に膝を叩きこんで昏倒させると、一撃必殺の早業で残りも蹴散らした。 空ろなサラリーマンの目が一瞬こちらを見たような気がしたが、気のせいだったらしい。攻騎は絡んでいた郎 党のサイフから新渡戸稲造氏を一枚拝借する。結局、どっちが悪党なのかはわからないのだが、当人は気にして いないらしい。 「さってっとっ、これでメシが食える・・・!?」 不意に背中で生れた殺気に、慌てて飛びずさった。 振り返れば、刺されていた男の姿が変化していた。背丈は2メートルほどか。容姿自体はカマキリに近いが、 前腕が両刃の斧になっている。 「アクス・フィッシュ・・・?って、聞いてねぇぞぉぉぉっ!!」 絶叫しても状況が好転する訳でもなく、両の斧が攻騎を襲う。それを巧みに避けながら武器になりそうな物を 目で探す。 「んにゃろぉっ!!」 咄嗟に拾ったそれをアクス・フィッシュに向かって投げつけ、斧のタイミングをずらすと、巻き上がった血煙 に紛れてゼロ距離まで詰め寄る。深い踏み込みと同時に鋭い突きを叩き込んだ。 ごしゃっ! 突き破ったアクス・フッシュの胴体を更に反動をつけてふっ飛ばす。ほんの数分前のサラリーマンと同じ状態 で――辺りにバラバラになった肉片が散らばっているのを除いては、だが――力尽きたアクス・フィッシュは、 そのままほどける様に霧散していった。 逆十字の印を切ると、攻騎はきびすを返して、そこから逃げ出した。 「ったく、なんだってんだよ、一体・・・」 とりあえず、今度スーパーでカップラーメンを箱買いすることを誓って、コンビニ弁当を買って家路に就いた。