――文化祭の終わった放課後、俺は一人で物理室にいた。なんとなく、昼間にであった娘に会えそうな

気がしたからだ。気がした、と言うよりも俺はもう一度でいいから彼女に会いたかった。

 夕暮れの西日が差し込む教室で、俺はずっと待った。

「あのねぇ・・・あたし、別に地縛霊じゃないんだけど」

 急に背後で声がした。振り替えると、あの娘が居た。ただし、体の線がぼんやりとしている。

「ひょっとして、あれからずーっと待ってたの?」

「うん」

 彼女は面食らったような仕草をしてため息をついた。

「ま、いいわ。ついてきて」

「へ?」

 彼女に促されるままたどり着いたのは、病院だった。

「面会時間とっくに過ぎてるから看護婦さんに気を付けてね」

 その言葉に従って、こそこそと暗くなりつつある病院のろうかを俺は歩いていった。そして

たどり着いた病室には。

「なぁ・・・『面会謝絶』って書いてるよーに見えるんだけど」

「実際にそー書いてるんだから当たり前でしょ」

「いや、そーだけど」

 そっとドアを開けて入ると、ベッドには確かに彼女が寝ていた。

「ってことは・・・?」

「そ。世に言う生き霊ってやつ?」

 そう言って彼女は苦笑した。

「先週、交通事故に遭ってね、そん時に幽体離脱したまんま元の体に戻れなくなっちゃって。でも、文化

祭には出たかったんだ。模擬店出すの、ちょっとした夢だったんだから」

「それで・・・あんなことを?」

「うん・・・。この世での最期の未練ってのをすっぱり断ちきりたくって」

『まぁ、そーゆーこっちゃねん』

 突然、彼女の背後に黒い人影が現れた。黒マントと頭巾をかぶり、手には大鎌を携えている。

「ひょっとして・・・この人って・・・」

「死神さん。いい加減、私を冥界に連れて行きたいらしくって。あの模擬店もこの人に協力してもらった

んだ」

『まー、最近は後先考えんとトラックに飛び込む人間が多くてなぁ、死んでから未練たらたらゆいよーる

さかい、こーゆー事までワシらの仕事になってしもたんやわ』

「飛び込んだって・・・この娘もか?!」

『ほーやー。なんかクラスの人間とソリが合わんゆーてな。けど、これでやっとワシもこの娘の魂持って

けるわぁ。・・・ほしたら、そろそろ行こかぁ』

 なんだか妙に明るい口調で言いやがる。

「・・・うん・・・。結局、お客は君一人だったけど、結構楽しかったよ。」

 彼女は、諦めと寂しさの混じった笑顔を見せた。

「じゃあ・・・」

「待てよ!!」

 俺は大声で叫んでしまった。でも、今はそんな事はどうでもいい。

「あんなので、どこが楽しいんだよ?!俺に言わせりゃあんなの、大失敗だよ!」

「ちょっと!なんでそんな事ゆーのよ?!・・・・・・やっと、生きることに諦めがついたのに!」

『ほーや、この娘のゆーとーりやで!』

 彼女が涙声で訴え、死神がまくしたてる。

「来年、も一回やろう!そして、成功させようよ!」

『あんさん、いきなり何を・・・!」

「・・・ねぇ」

 言い返そうとした死神に、彼女が割り込んだ。

「やっぱし、死んじゃうの、やめるわ」

『はぁ?!そんな今更いわれても・・・』

「そーだよね、お客さんが一人しかこないなんて、大失敗だよね」

「だろ?」

「来年、もっとがんばってみる。今度は、生身でね。そいで、そん時は手伝ってよね!」

 そう言って、彼女は涙を拭いて明るく笑ってみせた。

『はぁ・・・。また査定が・・・』

 なんだか貧乏サラリーマンのようなことを口にする死神だったが、結局、彼女を元の

身体へと戻してくれた。

  

 ――1年後――

  

「お前、今年はどーする?」

「わりぃ!今から模擬店の申し込みと打ち合わせしなきゃなんねーんだ!じゃな!」

 そう言って、俺はバタバタと彼女のクラスへと走っていった。

FIN...

BACK