「MERRY−GO−ROUND」

    

「あなたが欲しいものはなんですか?」

 そう聞かれて金だの愛だのと言ってしまうのが人情なんだろう。

 年は僕と同じくらいの、特に特徴の無い女性は、そんな事を唐突に

僕に聞いてきた。何しろ、僕の前に現れたの自体が唐突だったのだから、

当たり前である。

「さぁ、あなたは何が欲しいですか?」

 聞いてくる。

 やっぱり、ここは無難な金とかそんな無難な事を言ってやり過ごす

べきなんだろうか?

 でも、その時の僕はこんなことを言ってしまった。

「僕は、僕の生きた証が欲しい」

    

 ――数分後――

    

 僕は後悔していた。たった数分がものすごく長く感じて仕方が無い。

「僕の生きた証が欲しい」

 そう答えた後、その女性は僕に石っころを手渡した。何の特徴も無さ

そうな石。でも、その表面に仏様みたいな彫刻が彫ってある。

「いたぞ!!あそこだ!!!」

「おにょれ!御神体を盗みおってえええ!!!」

 なんかあからさまにアヤシイ格好をしたばーさんや妙に強そうなにーちゃん

が僕の方にものすごい勢いで走ってくる!

「うひゃぁぁぁっ!!!」

 慌てて僕はバタバタと走り出した。

    

 ――それから数十分後――

 

「はぁ・・・ぜぇ・・・はぁ・・・」

 路地の物陰で、僕は肩であらい息をついていた。

 結局途中でその「御神体」とやらを置き捨ててきたおかげなのか、何とか

逃げ果せたのだった。

「だいぶお疲れみたいですねぇ」

 その声にはっと顔を上げると、そこにはさっきの女性が立っていた。

「はぁ・・・あんたの・・・おかげで・・・ひ・・・ヒドイ目に・・・」

 悪態をつこうにも、すっかり疲れきってしまって何ともできやしない。

「しかし、これだけで終わってもお望みの物は手に入りませんよ」    

「・・・い・・・いい・・・いらな・・・」

 だが彼女はそんな俺の言葉も聞かずに紙袋を置いてまたもや雑踏に消えて

行ってしまった。

「ちょっとぉ、ソレあたしのよぉ」

 後ろから声をかけられ、振り向くと今度は女子高生が立っている。見た目

はいかにも普通っぽいが、目が完全にラリっている。

「大事なカネヅルなんだからねぇ」

 紙袋の中を横目で覗くと、"粉薬"が入っていた。

「・・・・・・げ・・・・・・」

 慌てて走り出した後、自分の要領の悪さに嫌気が差してしまった。何しろ

紙袋を持ったまま逃げ出してしまったのだ。当然――。

「待ちなさいよぉ!!!」

 追われている。しかもなんか追いかけてくる人数増えてるし!

「うあおぉぉぉぉぉっ!」

 疲れきった体にムチ打って更にスパートをかける。もはやランナーズ・ハイ

の領域に達しようか、という時。

「はいこれ」

 今すれ違ったの、さっきの女の人?!

 手の中に紙袋はもうない。代わりにキャンプナイフを持っていた。しっかり

としたプラスチックの鞘に入っている。何の変哲も無い。血がべっとりとつい

いるのを除けば。

「おまわりさん!あそこです!!」

 ひたすら走り続けている俺の後ろでそんな声が上がる。顔だけ振り向くと

制服姿の警官の姿が見える。

「僕は無実だぁぁぁぁぁっ!!」

 叫びながらも、足は止まってくれない。

 人込みが切れる。と、目の前に銃を構えた別な警官がいた。

   

  ぱぁん!

  

 シャツの左胸が真っ赤に染まる。僕はその場にばったりと倒れた。

「はいオッケーで〜す」

 急に僕の周りが騒がしくなる。ライトでいろんな方向から照らされたり、

カメラや集音マイクの類が抱き起こされた僕の視界に入る。

 そして、今まで僕を追いかけてた人達と、あの女の人と、見たことないおっ

さんの姿があった。その中のおっさんが僕に話しかけてきた。

「顔から倒れたみたいだけどだいじょぶ?でもまさかペイント弾であそこまで

いいリアクションしてくれるとはねー」

(・・・ペイント弾?!)

 確かにシャツの下には傷一つ無い。

「な・・・・・・」

「番組でね、『火事場のクソ力は実在するのか』ってのを検証するロケなんだ」

 まだそのおっさん(多分ディレクターかなんかだろう)は話し続けたいたが

僕にはもはや聞いているだけの気力は無かった。

 ――生きた証なんて物は、自分以外の誰かがいて、初めて成立するもんだ

と、今更ながら当たり前なことを考えていた。

「けど、まぁ、欲しいものはもらえたかな?」

 そう呟いて、赤インクがべったり付いたシャツの胸ポケットにポラロイドの

写真を押し込んだ。

FIN...

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